黄昏のエポック - バイロン郷の夢と冒険

かわまりの読書ルーム II

闇のくまさん泣かないで(その2)

そうこうしているうちに参議院選が終わりました。結果は安倍さんの事件が起きる前からの予想と大差がなかったですが、惜しむらくは投票率がもう少し高かったらと思います。まあ、期日前投票が増えたのは関心の高さの反映ですが、猛暑のせいで投票所に行かない人が増えて相殺されてしまった気がします。わたしみたいに涼しい朝のうちに済ませようと前日に目覚まし時計をセットするが有権者は少数派かもしれませんね。

 

「黄昏のエポック」でわたしが表現したかったことの一つに表現者の魂が死後も不滅で作品に接する人々と生前抱いていた理念を共有するということでがあります。バイロンの学生時代からの朋友であるジョン・カム・ホブハウスにわたしは「第六話 若き貴公子」の終わりのほうで「議会は僕の太陽だ。」と言わせました。この発言自体はわたしの創作ですが、男爵家の当主として何の努力も無しに貴族院議員の地位につけるバイロンに対して熱心にホイッグ党への入党を勧めたホブハウスが文字通りではなくても同様のことを考えていたことには疑う余地がありません。これに対してバイロンは一旦は決定を保留し、代わりに若干二十歳の若さで "English Bards and Scotch Reviewers (イングランドの詩人とスコットランドの批評家) " を発表して言論の自由を全面的に讃え、ホブハウスとの二年近くの長きに渡った卒業旅行(グランドツアー)を終えた後に鋭意政治活動を開始しました。二十代後半の若き政治家バイロンが手がけたのはアイルランドカトリック信者らに関わる信教の自由の問題から産業革命期の囲い込みによって生じた失業問題や工場労働者の待遇などがありますが、その後私生活上のスキャンダルによってイギリス政界を去った後、バイロンは自己の精神に沈潜する内省とナポレオン失脚後のヨーロッパ大陸の現状の見聞とによって数々の傑作を生み出していき、これらの作品は全て、現在のウクライナやロシアの脅威に怯える北欧と東欧のNATO加盟国の歴史認識と重なります。惜しむらくはわたしの英語力の不足のせいでこれらの作品の行間を読み込んで和訳することは到底無理です。なお、バイロンの親友ホブハウスは熱心な選挙運動が実ってイギリス下院議員(日本の衆議院)の議員となり、後には所有する農地や工場の労働者の福祉に尽くした功績によって貴族に列せられ、かたやギリシャ独立のために義勇兵として現地に赴いたバイロンの後方支援のために設立したギリシャ独立支援基金を運営しました。ホブハウスの中でバイロンの詩句とともにバイロンの理念は生き続け、19世紀後半のイギリスの議会制度の下で花開いたのです。

 

表現の人バイロンが抱いた理念は現代において様々な理念を抱いて活動する人々と共有されています。行動の人であり、死後には言論の自由の守護神になられた安倍元首相の理念も現世で行動し、理念を表現する人々に共有されていくでしょう。(以上)