黄昏から暗闇に、そして黎明から今日へ
日本では何年かぶりの総選挙が先週行われて戦後史上最低の投票率が記録されました。投票率についてはあれやこれや言うことはありません。自分の一票が国政の方向を決定すると思う人はいないしいたら少し頭がおかしいでしょうが、一方で「自分の一票が民意の一部を形成することはわかっちゃいるけれど面倒くさい。」と思うことはごく自然で。もっと言うならばこういう人たちは自分を含めた大勢の人々の集合意識を信頼していて自分一人が棄権しても結果の大勢は変わらないと信じているのでしょう。
さて、「黄昏のエポック」はナポレオンがフランス革命の理想を掲げてヨーロッパ大陸を席巻した後、理想の実現を楽天的に信じる真昼の時代からウィーン反動体制による翳りとそれでも情念の上だけで希望が燃え盛る黄昏の時代を生きたイギリス人詩人のジョージ・ゴードン・バイロンを描いた時代小説です。
巻頭の書き出しからは主人公のバイロンが離婚のゴチャゴチャを紛らわすために自分のファンの少女を妊娠させてしまい、しかもやはり自分を慕う駆け出しの詩人シェリーとの仲を疑うという極めて個人的な問題を書き連ねる小説だと思われる読者が多いと思います。それはひとえにわたしの文筆力の未熟によるものであって、「第七話 レディー・キャロライン」の巻頭の演説文の訳が示すようにバイロンは一時期政治にも多大な関心を持っていました。